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仮庵

書きとめる仮住まい

直感

夏の日の朝だったか、昼だったか。とりあえずなんだかめちゃくちゃに明るかった。日差しが容赦ない日だというのに、不思議と暑くはなかった。もしかしたら春だったのかもしれない。

いつも通りノロケ話を聞かされる。ケケケと笑いながらその話を聞く。

ノロケ野郎が去り、ニヤニヤしたまま扉の閉まる音を聞く。残響のあと静けさがやってきて、独りに安心したあと、反対側の大通りから車の走る音だけが遠回しに聞こえはじめる。

ふと「わたし、この人と結婚するはずだったのになあ」という言葉がうかんだ。
なんのこっちゃ、と驚いて泣きだしそうになった。

恋愛関係にもなく、そんな感情もいっさいない。
まず好みのタイプではない。ふてぶてしいし細かいことにはうるさいし、塩顔じゃない。メガネではある。
そう思うことすら意味不明だった。たいへん失礼ではあるが、眼中になかった。

向こうには(結婚するつもりらしい)彼女がいたし、わたしは愛嬌があってレッサーパンダみたいなやわらかくてふわふわしている他の人に夢中。ついでにメガネ。

なぜそんなこと思ったのだろう。と、考えたけれど答えなど出るはずもない。すぐに気持ちは元に戻ったし、そこから相手に好意を抱くようなこともなかった。それよりも、レッサーパンダだった。

白昼夢をみたようだ。
けれど、そう思ったという不可思議だけは覚えていた。

それから3、4年後、その人とわたしは結婚することになる。

結婚してしばらくしてから、そのことを思い出した。
結果そうなっただけとはいえ、あのやたらに明るい光さす直感は当たった。

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