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仮庵

書きとめる仮住まい

焼き網になれなかったケーキクーラー

雑記

焼き菓子を冷ますために、いよいよ脚付きの網を欲したはずだと記憶している。

しかし、おそらくそんな名前であろうと思われる「ケーキクーラー」にはなかなか出会えず、やっと出会った一点も決定打に欠け買わずに帰ってきた。

ある日、100円均一コーナーを通り過ぎようとすると脚付きの焼き網(脚がたためるタイプ)が並べられていることに気がついた。ちょうど、野外でバーベキューが盛んになる頃合いだったのだろう。

「これだ!」と思える欲しかったものと出会ったとき、それはなんとなく光り輝いている気がする。
やたらと主張している気がしたので、これでいいじゃないかと気楽にーーなんといっても百円だ。失敗してもそんなにひどく痛さは感じないーーさらっと購入した焼き網が、今では欠かせない調理器具だ。

日々ありがたやありがたやと感謝して使っている網だが、洗っているときにふとこんなことを思う。

「焼き網として生産されたはずなのに、いまや揚げ物の油きりにされたり焼き菓子を冷ましたり乾燥台にされて、網はいまなにを思っているのだろう。焼き網としての自負みたいなものを持って生まれていたとしたら今はどんなことを考えているのかな。いや、まてよ自分が何者かもわかっていないという場合は? 網であることを網が認識するにはどうすればいいの? いずれにせよどういうことを考えるのかしら? まずどこから整理してはじめる?」

「いや考えるもなにも」と、わたしのわたしが一言つぶやくのを聞いて、現実に戻る。

こういうことがついやめられない。けれど、ちょっとしたことでもとつぜん妄想の迷い道に入り込んでしまうことは苦しさに近いものを感じるときもある。

しかし最近は、まあそれもいいかと受け入れられるようになりつつあり、これまでは黙っていた妄想をよく伴侶に話す。
こんなことを考えてるんだよね、と吐露してもまったく驚く様子なく受け入れてくれる人が家にいることは大きい。

半笑いで網を水切りかごに入れる。
今日もお疲れさまでした、と、こころの中で一言つぶやく。

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