仮庵

書きとめる仮住まい

秋と冬

今年の夏は思い残すこともないらしく、さっさと帰ってしまったようだ。もう空気に秋がちらほらと漂いはじめている。
空も木の葉の色も、まだ秋に追いついていないけれどグラデーションのように次第にそれへと変わるのだろう。

一年の半分を雪とともに過ごさなければならない北国の人間として、秋のにおいは本当に貴重だ。
ゆだんをすれば、冬はあっという間に世界を支配しあたりを白一面にしたがる。

ほんの一瞬程度の秋のにおいに、なぜか多くの思い出があっていつだって秋が恋しい。
ずっと秋だったらーー雪にうんざりすることもないしーーよいのになあと思うのだけど、張りつめた空気に鼻先を冷やしながら過ごし、ある日ゆだんした空気に気がつき春がくるのだと気がつくとおとずれるキュンと胸が踊るあの気持ちも好きなのである。

雪と寒さの冬に九割うんざりしているのだけど、雪が降りはじめる前のワクワク感、立ち並ぶイルミネーション(これは冬でなくてはいけない)、寒くてどうにもならない日に見上げる粉雪。これには勝てないのだ、というあきらめを抱きながらも春までなんとかせねばと雪かきシャベルを握りしめる。

けれど子どもの頃から共にしてきた空気を、十割うんざりできない。常に暖かい場所に行ったら、きっとあの寒さが恋しくなる。冬にも寒さにも文句ばかり言っているくせに、ワガママだ。

日なたはまだ暖かく、寒すぎない秋を大切に思う。山の彩りも朝陽もきれいだし、めいいっぱい空気を吸い込んでにおいも楽しんでおく。冬を迎える前の最後の陽の季節なのだ。

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