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仮庵

書きとめる仮住まい

知ろうとすること。 (新潮文庫) : 早野 龍五, 糸井 重里

先日、福島産の食品に関する風評被害のツイートが波紋をよんだという記事を読み、「うーん……」と考え込んだすえ、この本のことを思い出しました。

知識が、情報が固定されているということ

糸井 「わからないから怖い」って不安に思っている人ほど、新しい情報に対してオープンじゃなかったりしますよね。「触らぬ神に祟りなし」って感じで近寄らないようにしてたり、「何が何でも放射線はゼロにしてくれ」って、耳を塞いで言い張ってたり。p.16

早野 あと、「わからない」であきらめてるような人って、知識がないわけじゃなくて、震災直後の混乱した中で発表された情報のままで知識が固定されてるんですよ。p.16

そして、知識が固定された状態というのは、パソコンやゲーム機がよくわからないという発言に似ているなと思っています。
放射線のことばかりでなく、知識が固定されている状態というのはとても身近です。

身近であるパソコン・ゲーム機の「よくわからない」シャットアウトをひらくことすらとても容易でないのに、目に見えない放射線に関しての情報をシャットアウトした意識への接触はとても難しい。

情報の更新が行われず、知識が固定されている状態というのは考えることを放棄したことではないかと感じています。

しかし、考えることを放棄しているかどうかというのはとても気づきにくい。それは本人にとっての事実であり、正義であるのだと思います。
そしてそれは、自分の心の保護でもあると思うのです。誰か特別な人がすることではない。誰にでもありえることです。

本人が知りに行こうと行動しない限り、とじられた扉を開くことはすごく難しい。
第三者がどうにかできることなどあるのか? 

銀の弾丸はないのだ

早野 さきほども言いましたように、やっぱり放射線に関しては「量」の問題を踏まえなくてはいけない。放射線は、健康に関して無害なわけではない。ただ、デマとか間違った情報というのは、福島ではありえないような高い線量のケースを引き合いに出していて、それをあたかも福島で起こりうるかのように言ってるんです。それは2011年の早い段階では、仕方がないケースもあったかもしれない。ショッキングな警告としての役目はあったのかもしれない。それは、ぼくは否定しません。
 だけれども、ここまでの時間が過ぎて、これだけのデータが出そろって、線量の低さも非常に明確にわかってきた。この今の段階で、そういう話をするのは、ありえないし、あってはならないと思う。

糸井 いま早野先生が示されたような、科学者としての誠実で揺るぎない態度が、ますます必要になりますよね。

早野 うん。もどかしいんだけどね。でも、本当に、そう思う。

糸井 正しいデータだけでなく、態度や表現。たしかにもどかしいことですが、ひとつひとつ、必要なんだと信じて、やるしかない。もちろん、科学者の方だけじゃなく、ぼくら第三者も、弱い力を出し続けていく。
 あとは、それを言っている発言主体が、みんなから信用されるというような生き方をしていくしかないかな。ずいぶん遠回りですけど。

ぼくら第三者も、弱い力を出し続けていく。

この一言で銀の弾丸はないのだと気付かされます。
この本の目的は、ここなのでしょう。

最近は(以前もあったかもしれないが)事実に対して「考える」というステップを通り越してストレートに表に出すことが多くなったような気がします。それらは人に届くスピードがとても早い。

そのため、スピード感よりも安定性と確実性を選んだ、まっすぐに物事をみつめ考える人は見つけにくくなった。しかしそれらは情報の激流にさらされても確実に残っていくものだと思うのです。

この本は後者です。

難しい用語や数字を使わず、わかりやすく、誰にでも読んでもらえる確実な本。 多くの人に読まれることを願う本です。

なににでも適用できる、標語のような、指針のような

糸井さんは、こうおっしゃいます。

ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かしてないほう」を選びます。「より正義を語らないほう」を選びます。「より失礼でないほう」を選びます。そして「よりユーモアのあるほう」を選びます。

インパクトのある出来事・発言は、それが事実でもデマでも、誰もが持つ不安という気持ちにめがけてえぐりながら刺さってきます。

この姿勢の表明によって、当時の混乱した狭まりつつある意識、不安にえぐり刺さった矢を抜けた人がどれくらいいたでしょうか。わたしもその一人です。

糸井さんのこの言葉は、非常事態にのみ適用される言葉ではありません。
普段から社会を見つめるうえでこころにとめておくとよい言葉だと思います。

今日の本

知ろうとすること。 (新潮文庫)

知ろうとすること。 (新潮文庫)

kindle版もあります

知ろうとすること。(新潮文庫)

知ろうとすること。(新潮文庫)

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